2011/06/03

被災地にて[3] 






泥だらけになったアルバムの写真救出は繊細な作業だ。まず、アルバムの台紙から写真を剥がす作業から入るのだが、簡単には剥がれないものが多数です。なので、最初はアルバムごとぬるま湯に投入し、しばらくおきます。すると、粘着面がふやけて、剥がれやすくなります。アルバムの台紙から剥がすのはぬるま湯に入れることで劇的に作業効率が良くなるのですが、問題は台紙一枚ごとに被せてあるナイロンフィルムほうです。このナイロンフィルムがよく写真と癒着してしまっています。そして、画像面に被せてあるので剥がす時に画像ごと剥がれて駄目になってしまいます。この様に癒着した時には理屈としては、写真とナイロンの面は真空になっているので真空を無くしてしまえばいいのです。僕のやり方ですが、写真の端の方を犠牲にして少し剥がす。そして、その隙間にぬるま湯を投入し、少しづつ剥がすやり方で今まで成功しています。

剥がした後は一枚一枚の写真を綺麗にしていく作業です。この作業は、ぬるま湯ではやらないで、常温の水か、少し冷たい水でやります。ぬるま湯でやると、写真がふやけて、柔らかい状態なので、やはり画像を傷めるリスクが高いです。ですから、常温の水で出来ることならば素手で、指の腹を使い優しく撫でる様に汚れを落としていきます。この方法でも救出出来ない写真があります。それは、インクジェット、顔料のプリンターで印刷したものです、これらの写真はいくら繊細にやろうと、モノが弱過ぎて画像がボロボロになってしまいます。一方、フィルムで撮られた銀塩写真は元々が現像するプロセスに水を使う行程があるので、中々強いです。本当に大事な記念写真は銀塩写真かなぁと思います。
綺麗にした後は、洗濯バサミなどで吊るして、自然乾燥させます。乾燥させ、アルバムごとにまとめ、後は持ち主が現れるまで適切な場所で保管されています。

写真の保管所には引っ切りなしに人がやってきます。僕が、見た限りでは来た人は何かしらの思い出に繋がる写真を発見して持ち帰っています。まぁ、当然に何も見つからないで帰る人もいます。だけれども、毎日、アルバムは運ばれてきますし、まだ瓦礫の中に埋まっているものもあるので日々、足を運んでいれば見つかる可能性はあります。暗い話ばかりではなく、保管所は来た人の思い出話に華がさく場所でもあります。それに写真は発見された地区、エリアごとに整理されているので、思わぬ人同士の出会いもあります。「あー、○○さん。無事でよった。」という連絡の取れなったご近所さんとバッタリ出会ったりすることも度々あります。


写真という、一つのツールを巡るこれら状況は衝撃を与えました。写真の仕事や、作品をしていても、人にとって、写真と言うものがここまで大事なものであるのか、と改めて認識することになりました。そして、何よりも貴重な写真のほとんどは、名の知らぬカメラマンにより撮影されており、よりパーソナルであればあるほど、その写真は追憶へと至るのだと。

もしかしたら、写真と言うのは、人の記憶が拡張した一部なのではないのか?と思っています。皆が探す写真はやはり、故人の写真や故人との思い出が紡ぎだされる写真達です。人は沢山のことを記憶しています。と同時に沢山のことを忘れる性質もあります。故人のこと自体を忘れることはないが、時が経つにつれ、その顔をハッキリ思い出そうにも何となくしか出てこないものです。それが、写真を見ると、みるみる内に記憶が甦ってきます。

ある、おばあちゃんの依頼で、敷地内の瓦礫を撤去していたらば、アルバムを発見したことがありました。おばあちゃんにアルバムを届けると、何故か、僕も一緒に見ることになったのですが、お見合いで結婚してから第一子が生まれるまでの期間の歴史が詰まっているアルバムでした。

おばあちゃんの家族は地震とか、津波では大丈夫だったそうです。が、旦那さんを地震の五年ぐらいに前になくされたそうです。なので、家が流されてから、何か思い出の写真が無いか探していたみたいでとても喜んでいました。アルバムを見ながら、色々記憶が思い出されたみたいで、写真を指差しながら、遠くには行けなかったけど楽しかった新婚旅行の話とか、旦那さんは釣りが上手かった話とか、姑の愚痴とか、子供が生まれて、巡業に来た横綱の大鵬に抱っこしてもらったことなどなど、昨日のことを語るかの様に色々話してくれました。

次々と記憶が溢れ出すおばちゃんを見ると、アルバムの存在意義を感じました。アルバムは普段は場所取るし、面積とるし、生きている分スペースを取るものです。だけれども、邪魔だからといって捨てようかと思うと中々、気が引けて出来ないものです。この気が引ける気持ちを感じるのは直感的にも人間にはアルバムを見て、過去を振り返る時期というものが何時かしら来ることを予期しているのかもしれません。

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